特集:震災ボランティアからの市民セクター  1章:震災ボランティアからネットワークを考える

電子ネットワークを活用した情報ボランティア活動
−インターネットとパソコン通信−

今瀬政司
 ワールドNGOネットワーク(WNN)事務局長(執筆当時)

特定非営利活動法人市民活動情報センター代表理事(現在)


*市民活動情報センターは、ワールドNGOネットワーク(1995年2月設立)のメンバーが
その活動を発展的に引き継いで、1995年8月に設立した団体です。

「地域開発」誌 1995年5月号 掲載 【 禁無断転載 】

財団法人 日本地域開発センター  〒100 東京都千代田区内幸町2−1−1 飯野ビル  TEL:03−3501−6856

はじめに /情報ボランティア /WNN /電子ネットワーク利用 /基礎知識

2.「ワールドNGOネットワーク(WNN)」の
ねらいと活動状況

 ここで、インターネットを利用した情報ボランティア団体の一つである WNNについて、活動のねらいとその活動状況を紹介させていただこう。

(1)WNNの設立経緯とねらい

 WNNの発足は、震災直後の2月1日。その発端をつくったのは、インター ネットユーザーである大阪大学の水野義之助教授(核物理研究センター)であ る。水野氏は、震災直後からインターネットを利用して情報ボランティア活動 をしていたが、そのダイナミックかつ組織的な展開の必要性を感じた。そこ で、インターネットで情報ボランティアの募集をし、かつ大阪YMCAの笹江 良樹氏と大阪大学「大型計算機センター」・情報工学科の下條真司助教授に協 力を求めた。笹江氏は、「被災地の人々を応援する市民の会」の事務局活動や 「関西NGO協議会」の取りまとめをしており、下條氏は、かねてより大学・ 学術研究機関の電子ネットワーク構築を手掛けていたからだ。

 そしてWNNの活動目的を、被災地でボランティア活動をしている市民団体 がその活動を効率的に行うために、インターネットを使って、情報機能強化の ニーズがある団体を側面から支援し、かつ団体間の情報ネットワーク推進をサ ポートすることとした。

 だが殆どの市民団体は、インターネットを使うための技術・知識を持ってお らず、日々の活動が忙しいために人的・時間的余裕もなかった。また、電子 ネットワーク自体に関する理解がなく、何に対してどのように使うべきかが分 からず、組織自体がそれを使うような体制になっていなかった。

 そのため、インターネット利用の技術をもっている情報ボランティアが、市 民団体の活動の中に飛び込んで行って、そのスタッフに技術を伝授し、共同作 業を行うことによって、情報化サポートを進めて行こうということになった。 そしてその後に、市民団体のスタッフ自身がインターネットを使いこなしてい るようになればと考えた。市民活動家の世界と電子ネットワークユーザーの世 界との融合・連携である。

 活動拠点として、「大阪YMCA」、西宮市や神戸市東灘区・灘区を中心に 震災応援を行っている「西宮YMCA」、震災関連の市民団体160団体を組織 する神戸の「阪神大震災地元NGO救援連絡会議」の3カ所を順次つくって いった。幸いにして、「アップル・コンピューター(株)」、「朝日放送 (株)(ABC)」、「日本電信電話(株)(NTT)」、「ヤマハ(株)」、 「(財)関西情報センター(KIIS)、「(株)インターネットイニシアチブ (IIJ)」、「富士通(株)(Infoweb)アウトソーシング営業支援部」、 「(財)千里国際情報事業財団(SIII)」、「大阪大学大型計算機センター」 などからの協力を得ることができ、活動の各拠点に専用パソコンを設置し、 ISDN回線を引いて、インターネットをフルに活用することができた。  「ワールドNGOネットワーク」の名称は、多くの市民団体がインターネッ トを使い始め、少しずつでも横の連携・連絡を取って行ってほしいという願い を込めたものだ。なお、WNNに関する情報は、インターネット上のWWW ホームページ『http://www.osaka-u.ac.jp/ymca-os/』からアクセスでき る(電子メール「ngo@center.osaka-u.ac.jp」)。

(2)WNNの活動事例

・パソコン操作マニュアルの編集
 現地での活動で、誰でもすぐ簡単にインターネットを使いこなせるように、 市民団体のスタッフへの技術指導を通して、より簡易なパソコンの操作マニュ アルを作成した。
・子供の心のケア
 西宮YMCAで子供たちの心のケアにあたっている倉石哲也氏(大阪府立大 学社会福祉学部講師)のレポートをインターネット(WWWとNetNews)に 流している。これに対し、ネットユーザーの中から、ケアに協力したいという ボランティア希望者が新たに出て来たり、他の参考事例の提示があるなど、次 の活動に膨らみが出てきている。
・INFO-HELP
 西宮YMCAのボランティアによる被災者対応の記録カルテ(未解決の問題 や知りたい事項)から、質問をインターネットに投げてネットユーザーから返 答をもらっている。
・情報検索
 ネットニュースの情報を整理しその中から、被災地の人の要望に応じて情報 (キーワード)検索をしている。
・被災地の子供たちの心のケアのためのニュージーランド(ワイヘケ島)へのホームステイ・プロジェクト(5月予定)にインターネット特派員として全面協力。
 ホームステイ先の子供たちと日本の親達とのホットな連絡を、インターネッ ト上の文字と映像でとれるようWNNメンバーが同行して協力する。(簡易テ レビ会議システムCU-SeeMeの利用も検討)
・地元NGO救援連絡会議の「震災・活動記録室」活動へのサポート
 震災記録にインターネットの技術を活かそうとしている。
・広報WWWの開発・利用
 WNNのWWWホームページに、WNNの活動概要、現地での活動から出て 来たストック情報、団体のイベント情報などを掲載し、情報の受発信を行って いる。
・被災地の地図情報のWWW掲載
 各被災地におけるバス停、診療可能な病院、保健所、避難所、救援センター などの情報を、その項目毎・地域毎にWWW上の地図に落として掲載してい る。なお、この地図情報は、「住友電工システムズ(株)」の協力を得て、ニ フティサーブユーザーの鈴木裕氏(電子メール 「MXF02116@niftyserve.or.jp」)が震災フォーラムにおいて作成・公開 し、さらにインターネットユーザーンユーザーの山本大助氏(電子メール 「center@art.osaka-med.ac.jp」)がHTML化し、大阪医科大学のWWW にて公開しているもの。
・電子メールによるボランティア自動登録受付システム(ソフト)の開発
 震災直後にボランティア受付が円滑に進まなかったことから、今後の対応の ために開発した。市民団体のスタッフからの要望によるもの。
・海外情報収集・整理
 将来の震災等有事対応情報システムの構築、広域ネットワーク利用開発のた めに、アメリカのFEMAからオンライン上でロス地震でのノウハウ等を提供 してもらっている。 ・インターネットの導入を希望する市民団体(活動拠点以外)にデモンスト レーションを実施し、新たな協力関係をつくり始めている。
・Public Access Point構想(研究中)
 社会資本として地域電子ネットワークを各地につくり育てていく。1つは、 駅や公共施設、コンビニなどの身近なところにパソコンがあり、手軽にパソコ ン通信やインターネットができるような環境整備をしていく。

 もう1つは、誰もが安く、パソコン通信やインターネットを利用できるよう に、大学・自治体・市民団体・企業等が各地域に公共的なBBSやインター ネットプロバイダーを設立するよう各方面に働きかける。例:「インターネッ ト京都」(京都市民のための公共プロバイダー)、「ニューCOARA」(大 分県の地域BBSで「地域コミュニティ」としてのサービスを推進中)。


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