特集:震災ボランティアからの市民セクター 1章:震災ボランティアからネットワークを考える
電子ネットワークを活用した情報ボランティア活動
−インターネットとパソコン通信−
今瀬政司
ワールドNGOネットワーク(WNN)事務局長(執筆当時)
特定非営利活動法人市民活動情報センター代表理事(現在)
*市民活動情報センターは、ワールドNGOネットワーク(1995年2月設立)のメンバーが
その活動を発展的に引き継いで、1995年8月に設立した団体です。
「地域開発」誌 1995年5月号 掲載 【 禁無断転載 】
財団法人 日本地域開発センター 〒100 東京都千代田区内幸町2−1−1 飯野ビル TEL:03−3501−6856
はじめに
/情報ボランティア
/WNN
/電子ネットワーク利用
/基礎知識
1.震災後の情報ボランティアの趨勢と意義
(1)情報ボランティアの誕生
震災では、ライフラインの一つである情報の遮断・枯渇化や偏りが問題と
なった。日頃の通信手段・情報源であった電話・FAX、新聞、テレビ・
CATV、ラジオも、被災地の人々のニーズに十分には対応しきれなかった。
その穴を埋め、かつ想像以上の役割を果たしたのが、口コミ、地域密着のミニ
コミ誌、アマチュア無線、そしてインターネット・パソコン通信であった。
阪神地区へのNTTの電話回線は通話制限措置がとられたが、パソコンによ
る情報通信では殆ど混雑による通信制限をきたすことなく、被災地と全国がつ
ながっていた。パソコン通信では、電話のつながりにくい地域でもアクセスポ
イントを変えることで接続できる特性が生かされた。インターネットが被災を
免れたのも、運が良かったということもあるが、ネットの途中がどこか切れて
も他のネットでカバーできるという元来の強みが発揮された。
このパソコン通信やインターネットなどの情報通信手段を使って、ボラン
ティア活動をした人達のことを、いつの頃からか「情報ボランティア」と呼ぶ
ようになった。
(2)情報ボランティアの活躍
日本では、米国等諸外国に比べてパソコンによる電子ネットワーク利用(パ
ソコンの「通信機器」としての活用)は遅れており、研究情報の交換、ビジネ
ス、ごく一部の趣味の世界に限られたものであった。それが今回の震災では、
そのオンライン上での世界に明るい人達によって、情報ボランティアという新
たなボランティア活動が生まれたのである。パソコン通信各社は、情報ボラン
ティアらの熱心な活動に動かされ、ネット上に無料の地震特設掲示板を開設し
た。
ある者は自転車で、ある者はバイクで各避難所を1件1件回り、現状を見、
聞き取り調査をし、何が不足しているのか、困っていることは何かを調べた上
で、その情報を電子ネットワーク上に流した。オンライン上でつながっている
何十万何百万人(インターネットの場合は何千万人)という人達に情報を提供
し、かつ応援や連携を求めたのだ。現地からの生の情報の一方で、被災地から
離れている人達は、各種マスコミ情報などをもとに、必要と思われる情報を分
野別・地域別などに整理してネット上の電子掲示板に次々と流した。そして、
被災地の人々からの要望に応じて、ネット上に蓄積されている豊富な情報の中
から必要な情報を検索し、紙にプリントアウトしたものを配布して回った。パ
ソコンを扱えない人には、代理投稿などのお手伝いもした。
また今回、海外からの応援の申し出が非常に早く多岐にわたっていたが、そ
のきっかけのひとつを作ったのがインターネットによる情報ボランティアであ
る。インターネットを使った図書館サービスの準備中であった神戸市外国語大
学の芝勝徳氏が、被災直後の状況をデジタルカメラで撮影し、震災翌朝からそ
の映像情報を次々とインターネット上のWWWサーバーに流したのである。こ
れにより全世界の人達は、テレビや新聞よりも早く、かつよりリアルに阪神・
淡路の被災地の状況を知ったのである。
震災直後から、インターネットのNetNews上には、震災のための緊急の
ニュースグループが作成され、そこに生活、商店・風呂屋、ライフライン、交
通、行政、金融、医療、住宅、物資、避難所、市民団体、教育、動物・ペッ
ト、死亡リスト、安否・伝言、被災地の人の声、マスコミ、被災状況、ボラン
ティアレポート、ボランティア募集、募金、献血、アマチュア無線、情報技
術、ミニコミ誌、障害者、外国人、などのありとあらゆる情報が流れた。
(3)情報ボランティア団体の展開
震災直後から数々の情報ボランティア団体が、ほぼ同時発生的に生まれて活
動してきており、またその活動の過程で役割分担も進んでいる。
- ・「情報ボランティアグループ(情報VG)」
- 震災後初期の頃に、生活情報をパソコン通信ネット(ニフティサーブ)上に
流し、かつネット上の情報を紙にして被災地で配って回った。避難所の調査も
実施した。(3月末で活動終了)
- ・「インターボランティアネットワーク(IVN)」
- ニフティサーブの利用者を中心とする情報ボランティア団体のネットワーク
で、避難所と行政と外部との連係、避難所の人を中心に役立つと思われる情報
の収集と発信を行っている。
- ・「インターVネット」
- 遠隔地の東京に居てもできる活動として、インターネットと各種パソコン通
信ネットとの共通の情報交換の場としてのインフラ(どのネットワークから入
力した情報も他のネットワークで参照できる仕組み)を作り、情報の円滑な整
理と有効利用を促進させた。
インターVネットのニュースグループ(3/1〜現在)は、「非営利組織情
報」、「企業の支援活動」、「接続技術情報」、「行政機関・業界団体からの
お知らせ」、「被災地・被災者:生活情報」、「被災地・被災者:知りたい・
欲しい」、「被災地・被災者:現地からの声」、「ボランティア:します」、
「ボランティア:募集」、「ボランティア:募集・震災関連」、「復興に向け
て」、「その他の情報」、「英語による情報」である。
- ・「ボランティア・アシスト・グループ(VAG)」
- パソコン通信を主に使用して、被災地の生活情報を「収集」し、その大量の
情報を「集約」整理し、電子情報化して「提示」するという3つの作業を、各
地の協力者と共に分担して進めている(2/21から現在)。また将来の震災へ
の備えとして、震災後の情報収集・集約・提示に焦点を当てたボランティア活
動支援(アシスト)センターの設立を目指している。
- ・「ワールドNGOネットワーク(WNN)」
- 通信手段はインターネットを活用し、今回の震災関係の応援活動、将来の震
災等有事対応情報システムの構築、市民団体の情報通信機能(情報受発信・整
理手段)確保のサポート、各市民団体の相互連携・情報ネットワーキング推進
のサポートなどを行っている。
- ・団体間の役割分担
- 震災応援の活動を通して団体間の役割分担ができて来ている。IVNや
VAGは、避難所と行政と外部との関係を接続が容易なパソコン通信でつない
でサポートしている。これに対しWNNは、避難所の人が自宅に戻っていった
らその人を支援できなくなることに注目して、地域一般住民と市民団体と外部
との関係をインターネットでつないでサポートしている。そして、インターV
ネットはこの両者、つまりインターネット(WNNはその利用者の一部)とパ
ソコン通信(IVNやVAGはその利用者の一部)とをつなぐ仕組みを提供す
るようになった。
また、VAGとWNNでは電子ネットワークユーザーの人材養成協力をして
いるが、VAGは主に避難所のパソコン通信オペレータの養成に協力し、
WNNは、市民団体のスタッフにインターネット技術の指導を行っている。
(4)情報ボランティアと電子ネットワークの評価
- 震災対応で浮かび上がった電子ネットワークの利点
・マスメディアに載らない細かい情報を利用者の立場から編集し、リアルタイムに掲載できる。大量の情報を生のまま伝えられる。(例:大学入試の詳細
な変更情報等)
- 個人が手持ちの情報を多くの人に簡単に発信できる。
- 被災地に連絡する場合、最寄りのアクセスポイントに電話すればホストコ
ンピューターに伝言が入り、相手に伝わる。
- 広範囲の人と情報をやり取りできる。
- 交通機関の時刻表、診療可能な病院・入浴場所などの地域性のある情報を
保存しておき、必要なときに検索できて、更新も簡単にできる。
- 遠隔地にいたり、仕事で被災地に行けない人でも、後方で情報を編集する
という支援活動ができる。
- 被災地の人々の直接的メリット
電子ネットワークが直接どれほど役に立ったかの定量的評価は難しいが、
ネットワークを通して多くの人が応援してくれているということへの評価は
あったようだ。直接通信環境になくても、紙にして作った情報を見ることに
よって、ネットワークを通しての人間のつながりの広さを知った人は少なくな
かった。
- 被災地の人々の間接的メリット
電子ネットワーク上に安否情報があったために、安否確認のための問い合わ
せ電話を減らすことに貢献した。インターネットは、パソコン通信に比べて接
続されている端末が少ないため、現状では被災地内部での情報流通よりも、被
災地以外(特に海外)への広域的情報提供という面での貢献度が高かった。
海外のメディアも、震災の中でインターネットの果たした役割を大きくク
ローズアップした(例:ワシントンポスト紙「Earthquake
On the Internet
/A Shock E-mailed Round the World(January
20,1995)」)。神戸市外国
語大学のサーバーへは、震災から約20日間の運用でアクセス数が約36万件(8
割が海外から、国数で約50カ国)もあったという。
- 電子ネットワークの利用対象拡大と社会的有用性の認知
電子ネットワークは、これまで研究情報の交換、ビジネス、ごく一部の同好
の集まりのものであったが、非常時の「通信手段」と「情報提供手段」とし
て、またボランティア活動の手段として機能し得ることが分かった。そのため
の現状と課題も浮かび上がった。電子ネットワークで自然発生的にできた人間
のネットワークが、予想以上に有機的に機能することも示した。インターネッ
トについて、今後の可能性と方向性を示した。
(5)情報ボランティア活動の問題点・課題
(6)情報ボランティア活動の展望
情報ボランティアの人達の多くは、ボランティアは今回が初めてだと言って
いる。震災直後、無我夢中でとにかく自分にできるボランティア活動を自力で
始めた。やることは探さなくとも目の前に山ほどあった。だが、2カ月3カ月
と時間が経つにつれ、今何が求められどう対応していいのか、今後の展開の仕
方や方向性が見えない、という行き詰まり感を抱く人達やグループも出て来
た。情報ボランティアの数自体も4月に入って減少した。
だが、情報ボランティア活動の社会的な存在意義と長期的展開の必要性を感
じて、今後も続けたいという人は少なくない。情報ボランティア団体の間で
は、緊急時・平常時を問わず長期的に対応できるボランティア活動の情報サ
ポートセンター的な組織や社会システムが必要ではないか、といった声も上
がってきている。活動を通しての暗中模索の中から生まれてきた震災情報ボラ
ンティアたちの一つの答えである。現在、その答えの具体化に向け少しずつレールを引き始めている。
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