行政のNPO支援はいかにあるべきか

阿部圭宏


1 はじめに

 阪神・淡路大震災以後のNPOに対する行政(特に地方自治体)の関心には、目を見張るものがある。96年4月の“かながわ県民活動サポートセンター”のオープンに始まり、全国各地でのNPO支援センター設立の動きが1つの流れになっている。

 私が関わっている滋賀県にできた“淡海ネットワークセンター”ができた流れは、市民活動の盛り上がりが直接のきっかけではないが、設立に当たっての大きな要因となったことは確かな事実である。

行政(地方自治体)のNPO支援が本当に必要か、NPO支援が良いのか悪いかの議論はあるにしても、行政としてこれからの日本社会あるいは地域社会をどのように築き上げていくかを考えた場合、社会的な要請としてNPOの果たす役割は大きいと考えられる。そのため、NPOが果たす役割を行政がしっかりと受け止め、そのために行政として果たすべき必要最小限の責務はあると思う。

NPOが行政・企業とは違うセクターとして存在、社会的に認知されていくためには、NPOが独立した個体としての責任を持ちえるかという点が重要である。昨今のNPOに対する議論が高まる中でNPOの現状を見た場合、社会的認知を得ている、あるいは得られるNPOの数がまだまだ少ない。行政がNPO支援を言った場合、独立した責任あるNPO、行政と対等に渡り合えるNPOが育つような支援を本当にできるのかが問題である。

 

2 行政としての最低の責務

それでは、行政のしての最低の責務とは何かであるが、行政情報の開示、アカウンタビリティ、アセスメント(政策・施策の評価システム)を挙げることができる。

まず、情報開示は、まず情報公開制度の早期の確立である。市民側が必要としている情報は、情報公開制度なくして保障ができない。全国的な状況は把握していないが、滋賀県で見た場合、制度化しているのは、まだ県と3市(50市町村の中で)だけであり、市町村における早期の制度化が課題である。さらに、制度ができていても、運用が市民に開かれた姿勢で行われているかという点である。意思形成過程の情報を出していこうとする自治体はごく少数であり、市民が政策形成に関われる余地はまだまだ少ないので、オープンな姿勢が必要である。

 2つ目のアカウンタビリティは、最近よく言われる言葉で、日本語では「説明責任」と訳されている。情報公開は文書による客観的事実であるが、これに加えて、行政がパブリック・サーバントとしての責任を果たす意味からも、アカウンタビリティという概念は必要であると思う。

 3つ目のアセスメントは、行政の中に評価システムがないという問題である。今の行政システムは、政策実現のために予算獲得には奔走するが、実際の事業執行に当たっての目標設定、遂行責任の意識が低い。コスト・パフォーマンスの考え方がなく(すべてがこれに該当するわけではないが)、予算消化のものもかなりある。議会でも、予算審議は時間を割くが、決算審議は追認型になりやすい。行政内部の評価ではなく、第3者によるアセスメントが必要でないかと思われる。

3 行政としての支援のあり方

行政のNPOに対する支援は、現状でも皆無ではない。しかし、今の支援はどうも本来あるべき姿ではないのではないだろうか。行政の姿勢として、すり寄ってくるものを可愛がり、反対するものには懐柔するか、無視するかで対応してきているように思う。

NPOへの支援を考える場合、NPOの自立と自律が前提であり、行政の支配下に置かないという姿勢を貫くことが基本である。また、何でも支援するというのは問題があり、支援内容の明確化・透明性が必要である。

行政がNPOを支援するということが無限に広がれば、NPOの自立と自律という考えは成り立ち得なくなる恐れがあり、かえって行政の自己増殖につながる。行政の効率化という面からも、一定の線を引いた支援体制をとるべきである。

NPOに対する行政のスタンスは、実はまだよく分からない。行政もどこまでやればいいか、どうした支援をすればいいのかというのは、試行錯誤の状況である。前述した行政の責務を果たせば、特に支援はいらないという考えも成り立ちうるのであって、今の時代はNPOを支援するインターメディアリーが育つまでの過渡期と捉えるのが正しいかもしれない。

個々具体的な支援策はいろいろ考えられるし、自治体で実際に行われているが、支援の持つ意味合いには、上下関係という側面がある。当面は支援という立場をとりつつも、近い将来に向け、対等の立場で支援から協働へとシフトしていく必要がある。行政の持つ資金量、情報量、スタッフの量と質が、市民側へ分権されることにより、はじめて「協働」という議論ができるものと考えられる。

NPO政策研究所の研究の中で、自治体のNPO支援の現状と最近作られている支援指針等の分析によって、支援から協働へのプロセスを明らかにすることを重要な課題に据えて取り組んでいきたい。

(あべよしひろ)

 

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編集協力:市民活動情報センター(SIC)