NPO(民間非営利組織)には、限りなく様々な顔がある。公益活動体の顔、市民活動体の顔、社会運動体の顔、起業家の顔、ボランタリーな顔、そして社会の問題解決型需要に対するサービス供給体の顔などである。今回、NPOというものを公的な社会サービス供給体として、政府および企業(市場)との関係性の中で、社会経済的位置づけを垣間見てみたい。
公的な社会サービス供給体には、大きく分けて民間の非営利セクター(NPO、市民活動団体、ボランティア、家族、コミュニティなど)と市場セクター(企業や自営業など)、ならびに政府セクター(国、自治体など)の3つがある。現在の日本では、政府セクターによる供給ウエイトが大きくなっており、この点が一つの大きな問題となっている。もともと民間セクターの間で供給し合ってきた、あるいは供給し合うべき公的な社会サービスが、各種規制とともに次々と政府セクターの領域に吸収されてきたのである。
「政府の失敗」がいよいよ顕在化するに従い、行財政改革、規制緩和、地方分権、市民主権といった観点からの論議が高まってきており、政府セクターに吸収されてしまった公的な社会サービス供給活動を民間セクターに戻していこうという動きが出てきている。民間の非営利セクターや市場セクターの役割を重視していこうというものである。
ただ、社会サービス供給のウエイトを、単純に政府から民間へシフトさせればいいというものでもない。民間においても、「市場の失敗」、ならびに「非営利セクターの失敗」が起こっているからである。社会が多様化・複雑化するに従って、福祉、医療、教育、環境、コミュニティなどにおける問題解決型のサービス需要が拡大してきており、これらは産業社会の市場メカニズムだけでは解決できない。また、非営利セクターにおいても、資金・人材・マネジメント能力等の不足、社会における未認知や法制度等の未整備などで、その潜在的な力を発揮できないでいる。
公的な社会サービス供給においては、非営利、市場、政府の3つのセクターが、最適な形で区別・混合化されていくことが重要である。それぞれのセクターの持つ長所、機能を生かし、弱点を補完し合っていくことが求められる。
政府セクターから民間(非営利・市場)セクターへのサービス供給のシフトについては、政府セクター内部でもその重要性の認識が高まってきている。しかし、民間化といっても、民間と政府では認識のズレもまだ少なくない。「民間委託」という言葉にあらわされるように、公的な社会サービスの供給主体は本来政府セクターであり、それを民間セクターの長所を一部生かして外部委託する、というような捉え方が政府セクターサイドにはまだ少なくない。広義の意味で使われることの多い「民営化」(民間委託、政府株式所有型(含売却途中)の国有民営化、例外規定保持型の民営化、一部自由化・規制緩和政策、ならびに完全民営化)という言葉もそうであろう。公共性、公平性、信頼性、機密性、非市場性などから全権を民間セクターに渡すことはできない、といった見解がその理由の一つである。だが、こうした理由によって、本来民間セクターが主体になるべきサービスまでもが政府セクター依存に陥り、非効率、高コスト、低質化のみならず、一般市民サイドから見て不公平感、疑心暗鬼を抱かせるような様々な弊害が出ているのも事実である。
さらに、福祉、医療、環境、情報通信、あるいはNPO支援など、現在既に非営利や市場の民間セクターが中心になってサービス供給を進めている分野に対し、そのサービス需要の高まり・顕在化に伴って、政府セクターの供給参入の動きが出てきている。これまで既に民間セクターが先進的に供給を行っている公的な社会サービスの分野については、そのまま民間セクターに任せるべきである。政府セクターが関わっていく場合は、直接的なサービス供給参入ではなく、法制度整備や資金供給などの側面的フォローに徹するべきであろう。
営利企業(市場セクター)とNPO(非営利セクター)を全く相対峙するものとしてみることがあるが、そうではなく両者は共通する部分、補完し合う部分が少なくないという視点で捉えていくことが大切であると考える。企業の活動はそれ自体において、社会性を帯びている部分がある。地域社会において雇用をもたらし、住民の衣食住に貢献している。生産優先・営利至上主義に走りすぎ、生活者・消費者・住民・市民といった社会を構成する一人一人の視点に立った経営がこれまでおろそかになっていたことが、反公的社会性の要素を大きくしてしまったのである。だが、「お金を儲けて多くの人に感謝される」、「人に迷惑をかけないでお金儲けをする」というような視点に立った経営をする企業家も徐々に増えてきている。
企業は、NPOの支援をするといったような単に一方通行的な形での社会貢献活動をするだけではなく、NPOの良さを取り入れた、あるいは協力・協働・相互補完関係を持って公的社会サービス関連の事業などを行っていくことが望まれる。企業にとって、ボランティア精神、人的ネットワーク、信頼関係、平等性など、NPOから学ぶ部分、補完される部分は少なくない。
非営利セクターはボランティア精神が基本であるから、収益・報酬のある事業を行ってはいけないといった考え方がある。だが、非営利活動、市民活動をより拡大させていこうとすれば、当然それなりの資金も必要となる。「ボランティア的な」ともいえるような、他者への利益をもたらすような、非営利活動としての公的社会サービス供給事業を行いながら、それで飯を食い、生計を立てていくということは、けっして矛盾した論理ではないであろう。生活の一部の時間でボランティア活動、市民活動、非営利活動をしていた人が、ますます情熱を持つようになり、「24時間365日、ボランティア的な活動をしたい」という思いを抱いた時、それが実現できない社会というのは、どうもおかしいのではないかと思う。ボランティア的な要素を持ち、他者への利益をもたらすような公的社会サービス供給活動を非営利事業方式で行い、飯も食っていく、というやり方は自然な考えであり、流れであろう。
また、非営利活動でより大切なのは、公的社会サービスの供給者の満足というより、むしろ供給の相手であるその需要者の満足であろう。いくら良さそうなサービス供給をしても、サービス需要者が満足しなければ意味がない。営利か非営利かというのは供給者側の問題であり、二の次の問題であると考える。非営利セクターが、その本来の形で本来の目的を果たす事業を行い、それで生計も立てていくというあり方は、広く認められてもいいのではなかろうか。
運営基盤に弱さを持つNPOが、営利企業からマネジメント上で参考になる部分を取り入れていく動き、非営利組織でありながら企業的事業体化を図っていく動きは、今後ますます必要となっていくであろう。また、NPOがサービス供給活動を活発化させていくに従って、市場セクターとの接点は否応なく増えていくことになる。
NPOセクターは、コスト・経済性だけで動くものではない特徴を持っている。信頼関係をベースとした人的ネットワークが機能的長所である。その要素と市場性とをバッティングさせずに上手く混合化させていくことが求められるのである。非営利メカニズムと市場メカニズムとがぶつかり合い、混ざり合っていくことで、公的社会サービス供給における新たな民間メカニズムが生まれるものと思われる。非営利セクターと市場セクターとの区別・混合化メカニズムの新たな創造である。
非営利、市場、政府の3つのセクターは、公的社会サービス供給体として、それぞれに長所・短所を持ち、本来的機能を持ち合っている。公的社会サービス供給を3つのセクターが、いかに相互に有機的連携・協力、役割分担を図っていくか、そのパートナーシップ(協働)が課題となる。パートナーシップとは、わたし流に言えば「互いに違いを認め合うこと、尊重し合うこと、その上で一緒になって協力・連携して、物事に取り組んでいくこと」である。水と油の関係ではなく、上下関係や包括関係でもない。また、ボランティア至上主義(総賛美)、市場メカニズム至上主義、政府主導至上主義は良くないと言え、単純に総同質化に向かう関係であってもならない。それぞれの持ち味である機能を区別し、役割分担を図り、さらに各機能を切磋琢磨させ混合化させることで、あらたな機能の可能性を創造していく。
そして、忘れてはならないことは、公的社会サービスの「目的」であり、それを何故しなければいけないのかということである。公的社会サービスでは、とかく無意識のうちに、供給サイドの事情・考え方ばかりを重視し、需要サイドの事情・思いを軽視してしまうことが少なくない。需要者サイドの事情やニーズを「分かった気」になり、供給を「すべき」だ、供給は「こうあるべき」だといったように思いこみ、それを押しつけようとしてしまう(最近のNPO支援の動きなどはある種その典型であろう)。机上の供給概念が先行し、その供給が上手く進まないと需要者側のせいにしてしまうことさえある。現場レベルの需要者との密接な交流から刻々と変化する個別ニーズを常に的確に把握し、需要者の事情・環境に合わせながら、そのニーズに対して最適な供給のあり方を一つ一つ考え実行していくことが、何よりも大切であり、出発点となる。ついつい忘れがちになる「現場の個別ニーズ」の視点、「相手の身になって考え行動していく」というあり方を、常に身に刻みながら取り組んでいかなければならない。わたし自身、自らの活動において、そうあらねばと思っている。
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