戦後の日本は、戦争の廃墟から早く立ち直り、先進諸国に追いつき追い越せとばかり、課題を先送りし、生産至上、経済効率中心でやってきた。
確かに経済大国になったが、成長持続を前提として立ち上げられてきた継ぎはぎによるシステム全体が疲労し、高齢化社会への対応や産業構造の変革などうまくいかず、現在その背景としての広義の政治構造の改革等が求められている。その一環として、分権と自治の確立による再編も不可欠の時代状況となっている。
地方分権の究極の目標は、地域社会の自己決定権の拡充であり、民主主義の徹底だと説かれている所以である。
93年の国会決議を出発点とし、当時の政治状況の中で95年5月地方分権推進法が成立し、7月に地方分権推進委員会が設置された。翌96年3月中間報告が首相に提出され、12月に第1次勧告、97年7月に第2次勧告、9月に第3次勧告、10月に第4次勧告がそれぞれ提出されて一応の役目を終えている。
「分権型社会の創造をめざして」と題する中間報告は、地方分権の理念や基本方向を示した格調の高いもので大方の好評を博した。96年12月の第1次勧告の最大の特徴は、国と自治体の関係を従来の上下・主従の関係から対等・協力の関係に改めるとともに、機関委任事務の廃止等を提起したことである。
分権を推進する方法には、国から地方へ事務権限の委譲を図る方法と国による地方への関与を縮小・廃止する方法が考えられるが、推進委負会は、前者については自治体側が現に大半の事務を処理しており、事務の細部まで1つ1つチェックするのは膨大な作業を要することもあって、後者を重視したとみられる。このため委員が各省庁幹部と直接膝詰め談判を行っているが、第1次勧告の前になって橋本首相が「実行可能な案でないと駄目だ」と抑制するとともに、推進委員会などの上に行政改革会議を設けたりしたので難渋したようだ。
97年7月の第2次勧告では、積み残した事務分類、補助金・税財源関係や府県と市町村の関係などについて取りまとめている。全体として後退した印象が否めないが、自治体関係者にとって、関心の深い補助金・税財源関係の具体例が少なく、抽象的な表現に終わっていることもあって、評価しながらもやや悲観的な見方がある。また、いわゆる「受け皿」論に配慮したのか自治体の行政改革の細部まで言及している。
第3次勧告は、時間切れで先送りとなった地方事務官制度の見直しや駐留軍用地特措法の事務区分に関するものであるが、後者については分権の主旨に反するとの批判が強い。
10月の第4次勧告は、残る機関委任事務の整理を終えるとともに、団体委任事務に係る国の関与の整理を行った。合わせて国と地方との係争処理のための委員会設置と(首相の指示による)市町村の規模に応じた権限委譲についても提言している。
以上のとおり4次にわたる勧告をもって今回の地方分権の大筋が定まったと言える。今後内閣が地方分権推進計画を策定(自治体側から更に働きかけも必要だ)し、地方自治法等関係法の改正整備を国会に提案していくことになるが、一定定着するには10年近く要すると考えられる。
地方分権推進委員会の勧告に自治体側がその意見を反映させるべく、地方六団体から何度も意見書を提出するなどしたが、府県や大都市は別として、市町村レベルの取り組みは十分とはいえない。
分権は目的ではなく、どちらかといえば手段であり、どういう分権を得て、それをテコにしてどういう地域社会を創っていくかという主体性がなければ、自らのことという実感がついてこない。分権論議は勧告で終わりではなく、これからが始まりである。勧告の中で生かせるものが多く、議会の権限も増え、また、市民参加の改革(住民自治)など残された課題もある。これから各市町村レベルでの取り組みが性根のところで問われる。
自ら知恵を絞る先進自治体と相変わらず眠れる自治体、そしてその中間の3つに選別される厳しい時代になると考えられる。その一環として府県から市町村への分権、議会の活性化、更には地域など内なる分権化についても検討されなければならない。
分権への意欲が自治体関係者にまだまだ少ない中で、一般の市民も同じように実感がもてない状況にある。しかしながら、市民の活動、市民団体の活動が様々な分野で行政を越えて活発化している。これら市民活動団体の存在と活動は、地域社会の中でより重要な役割を担う不可欠の市民センターとして位置づけられなければならない。それは、高齢化社会に対応できない行政の限界から、行政の中に取り込み手足として使うといった皮相的観点からでは決してなく、市民が主役の地域社会のあり方から求められるものである。
現に府県や先進都市では過渡期の課題として、ポランティア活動をはじめ民間非営利団体の活動がしやすい環境づくりを進めるための基本方針等の策定が拡がってきている。第2次勧告においても、「近年、非常に盛んになってきているボランティア活動や民間の非営利組織(いわゆるNPO)については、民間活動の持つ柔軟性等の長所を損なわせることのないよう留意しつつ、地方公共団体においても、情報提供等の必要な環境整備を行うものとする」旨提起している。行政の動きを待つまでもなく、市民からも働きかけていくべきである。分権型地域社会の創造に向けて市民と自治体関係者の協働が大きく期待される。
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