「市民活動」の理念と実態に基づいた非営利法人制度改革をめざす
  〜非営利法人制度改革は市民社会構築の試金石〜
  2003年2月20日
  市民活動情報センター・代表 今瀬政司
現在、内閣府行政改革推進事務局、財務省、政府税制調査会非営利
法人課税ワーキンググループ等で検討されている公益法人・非営利法
人制度改革の動きに関連して、皆様にご意見、ご提案を申し上げます。
(1)非営利法人制度の抜本的再整備自体は必要だが問題あり
(2)「非営利性」・「公益性」を持った法人制度の形成には 「市民活動性」の視点が必要
(3)公益法人・非営利法人制度改革という「構造改革の進め方」 そのものを改革すべき

(1)非営利法人制度の抜本的再整備自体は必要だが問題あり
◇一部伝えられている情報を見る限りにおいては、一部の公益法人・ 非営利法人のみについて、特定のものさしの非営利性・公益性基準を もとに制度の器を変え、規制の強弱を変え、税制見直しを行うこと、と なっている。公益法人等改革、NPO法制度の更なる整備、非営利法人 制度の抜本的な再整備が必要なことは、多くの市民が認識しており、 強く願うものであり、その取り組みが始まったことは非常に喜ばしい ことである。だが、現在進められているものは十分ではなく、問題がある。

(2)「非営利性」・「公益性」を持った法人制度の形成には「市民活動性」 の視点が必要
◇10年程前から市民の間で議論が高まり制定されたNPO法(特定非 営利活動促進法)について、その法制度創設の必要性は何だったの か、「市民活動(団体)、市民公益活動(団体)、ボランティア活動(団 体)といったものに、なぜ法制度の整備が必要であったのか」、その 視点が現在伝えられる情報の中には見えてこない。制度論・技術論 として、部分的な観点から見れば事の良し悪しはそれぞれ論じられるが、 なぜ公益法人改革、非営利法人制度の再整備が必要なのか、の視点 が見えてこない。そうした視点(理念)が無ければ、部分的な事の良し 悪しは利害関係の立場などによって変動的・流動的なものとなり、一概 に決められるものではない。


◇社会・経済を担う既存の組織体(企業や行政や従来あるような公益法 人等々)とは違う新たな存在として、社会的にも経済的にも市民活動 団体、任意団体NPO、NPO法人等に期待が高まってきたのは、なぜ なのか。それは組織制度的に従来無い新たな器ができたことは勿論 だが、それだけではない。「市民活動」という根源的な性格のものがあっ たということが、大きな要因なのである。市民活動団体としてのNPO 法人は、営利企業や公益法人等とある一面で類似性を持つものである が、すべてが同じ構造・性格のものとして論じられるものではない。

◇「市民活動」というものは、形には表現するのが難しく、制度で括りすぎ てはいけないものである。「市民性」、「市民活動性」で条件づけるよりも、 「非営利性」や「公益性」で条件づける方が制度的には整備がしやすい、 ということもある一面では確かである。だが、「市民活動が促進されるよ うな法制度的な基盤整備」を進めようという原点、根源的な理念が十分 に議論されない中での制度整備では、せっかくの改革も良い方向に進む とは限らない。

◇我々市民は、10年程前に議論していた「『市民活動』の基盤整備を進め る法制度づくり」の視点を今一度思い起こし、特定のものさしによる非営 利性・公益性等の部分的な制度技術論のみに終始せず、あるいは特定 の利害関係に偏らない形で、大きな方向性の理念と現場の市民活動に 基づいた制度的な技術論議を進めていくべきである。

(3)公益法人・非営利法人制度改革という「構造改革の進め方」そのもの を改革すべき


◇これまで一部国の関係者で検討されている情報が、十分に公開されな い形で進められる中で、2月21日に骨格が固まり、3月に大綱が決まり 閣議決定される、といったスケジュールが確定事項として先行している。


◇現在伝えられている情報はあまりにも限られ、市民が事の良し悪し 的確に判断し、議論できる状況にはない。


◇当制度改革の検討に直接関わっている国の方々も、おそらく、限られた 期間や様々なしがらみ、利害関係の中で、長い歴史的事情を抱えた 複雑な制度設計をしているということで、かなりの苦労をされ、苦渋の 選択をしているということは、十分に想像できる。

◇確かに、公益法人・非営利法人制度改革は非常に難しいものである。 だが、そうであるからこそ、制度設計過程をもっとオープンにして、多くの 市民が国の関係者とともに、知恵とアイデアと情熱を結集し、市民みんな の力で限りなく理想像に近いものを創っていくべきではないか。

◇「この部分は譲り、この部分は譲れない」といった取引議論もある時に は避けられないが、公益法人・非営利法人制度改革の必要性に関する 理念の共有が市民全体の中で十分にできていない段階では、そうした 取引議論になってしまうべきではない。

◇現状から見れば、確かに困難を伴うが、そうした社会システムの形成、 政策形成、構造改革のあり方、進め方そのものを変えていくことも、 市民活動であり、理想とする市民社会、民主主義社会の姿である。 その意味でも、公益法人・非営利法人制度改革は、市民社会構築の 試金石になるものと私は考える。

(ご参考)
 1993年1月から1995年11月にかけて、社団法人奈良まちづくりセンター は、NIRA(総合研究開発機構)に企画提案して、「市民公益活動基盤 整備に関する調査研究」と「市民公益活動の促進に関する法と制度の あり方(市民公益活動基盤整備に関する調査研究第2期)」を事業受託 して行った。調査研究報告書がお手元にある方は、もう一度ご覧頂け ましたら幸いです。


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