現状報告

1. 法案の経緯
2. 現状と見通し
3. シーズの運動


1997年5月28日
シーズ=市民活動を支える制度をつくる会 C's
事務局長 松原明

 

1. 法案の経緯

 昨年2月に与党3党のプロジェクトチームは、
『市民活動促進法案』の骨子についてほぼ合意を見たが、
3月に入り、住専問題により国会が紛糾すると、
法案に関する動きは、ほとんど止まってしまった。

 4月には、共和事件で自民党内部で執行部の調整能力が低下すると、自民党内部でもとりまとめが困難となった。そこで、自民党内の法案自体を否定する動きが顕著になった。そのため、活動分野を7分野に絞る、「公益性」(行政の恣意的な判断)を法人格の要件とする、政治上の主義・施策を掲げる活動を認めない、市民活動の定義を「低廉性」(安上がりなこと)におく、行政庁が改善命令・認証の取消ができるなどの極めて後退した自民党案が提出され、与党プロジェクトは3党での調整が完全に行き詰まってしまった。
 9月に入ると、市民活動重視を掲げる民主党が誕生し、10月に選挙を控え与党3党の枠組みをより堅持する必要が生まれたことなどから、再びNPO法案が注目された。
 与党3党は、9月に『市民活動促進法案』に関する与党合意を行った。この合意では、活動分野を11分野とすること、市民活動の要件として無報酬性(社員の3分の1以下しか報酬を受け取れない)を求めること、政治上の施策の推進を行う団体は排除しないこと、法人格付与の要件として公益性を問わないこと、などが合意された。
 この合意は、従来の自民党案から比べると一定程度評価できるものとなっている。
 昨年12月には、この合意を下に、与党3党による『市民活動促進法案』が国会に提出された。
 この法案の従来の公益法人制度に比べると良い点は以下の通りである。
1.10人の会員(発起人)がいれば、都道府県(2つ以上の都道府県にまたがる場合は、経済企画庁)に申請すれば、原則的に4カ月以内に認証されるとし、法人格を取りやすくした点。(財産要件なし)

2.都道府県の団体委任事務とし、都道府県毎に市民活動への対応が自由にできるようにした点。

3.情報公開を市民活動法人に義務づけ、市民活動法人の基本的な情報を一覧して見れるようにした点。(法人制度としては画期的)

4.経済企画庁および都道府県が所轄庁となり、それまでの主務官庁制(縦割り方式)を排した点。(ただし監督官庁が残ったという点ではマイナス評価)

5.認証という手続きで、原則的に書類審査で法人格を付与する方式を採用し、「公益性」を要件とせず、行政庁の恣意性をできるだけ排した点。

6.政令への委任をできるだけ少なくし、手続きが必要な書類などをなるべく法文に書き込むことにより行政庁が後々法律の運用を変えてしまう可能性を狭めた点。

7.議員立法を貫き、行政の影響を排し、市民側と議員との協議を重視した点。

 しかし、この法案には、

1.
対象となる活動分野を11に限定し、しかも狭く解釈する可能性が残されていたこと。

2.対象となる団体の定義に「不特定多数の利益の増進に寄与する」とされ、福祉団体や文化団体などの共益的な団体(会員サービスを主体とする団体)が排除される恐れがあったこと。

3.社員(社員とは「議決権を持つ会員」のこと)・役員の3分の1以上は報酬を受け取ってはならないという、「無報酬性」を市民活動の要件としたこと。

4.社員名簿の行政庁への提出を義務づけたこと。

5.予算書の提出、予算に基づき複式簿記で記帳することなど、活動に負担となる提出書類が多かったこと。

6.政治上の主義を掲げる団体は対象となれないなどとして、政治活動に関する制限が盛り込まれていたこと。

7.行政庁による立入検査、改善命令などがあり、また設立認証の取消が、行政庁が裁判所を経ずにできるとされ、行政庁の監督がついた内容となっていたこと。

8.誰でも市民活動法人が不審な活動をしていると考えたときは、行政に告発できるという条項がついていたこと。

9.担当となる経済企画庁は、認証の際、所管の官庁と相談できる、という団体の実態審査を一部容認する内容となっていること。(認証とは書類による形式審査にするために使ったはず)

10.寄付に関する税制の優遇措置に関しては、まったく検討がなされてこなかったこと。

 など、多くの問題点があった。

 今年に入り、2月からは、この法案の修正協議に民主党が参加。
 この修正協議の結果、
次の条項に関しては削除される方向である。
3.
社員(社員とは「議決権を持つ会員」のこと)の3分の1以上は報酬を受け取ってはならないという、「無報酬性」を市民活動の要件としたこと。(役員は残った)

4.社員名簿の行政庁への提出を義務づけたこと。

8.誰でも市民活動法人が不審な活動をしていると考えたときは、行政に告発できるという条項がついていたこと。

9.担当となる経済企画庁は、認証の際、所管の官庁と相談できる、という団体の実態審査を一部容認する内容となっていること。

また、次の条項に関しては、解釈なり制限をつけるなりで限定的に対応し、問題点を解決することが検討されている。

1.
対象となる活動分野を11に限定し、しかも狭く解釈する可能性が残されていたこと。
→活動分野を12とし、各分野を広く解釈し、できるだけ多くの市民活動が入れ
るようにする。

2.対象となる団体の定義に「不特定多数の利益の増進に寄与する」とされ、福祉団体や文化団体などの共益的な団体(会員サービスを主体とする団体)が排除される恐れがあったこと。
→文言は残すが、金額、手法などの点で不特定多数の要件を満たしていると判断出来ればよいとして、多くの団体を実際上は含める。

5.予算書の提出、予算に基づき複式簿記で記帳することなど、活動に負担となる提出書類が多かったこと。
→予算と決算が食い違っていても構わないこととし、また単式簿記でも良いこと
とする。

6.政治上の主義を掲げる団体は対象となれないなどとして、政治活動に関する制限が盛り込まれていたこと。
→政治上の主義を、自由主義・社会主義・共産主義などの極めて狭い範囲で限定
して、政治上の施策の推進は構わないことを明確にする。

10.寄付に関する税制の優遇措置に関しては、まったく検討がなされてこなかったこと。
→税制に関しては、早急に、優遇税制の内容に関して検討を始めることを確認す
る。

しかし、以下の点については、結局問題点を解決できなかった。

7.
行政庁による立入検査、改善命令などがあり、また設立認証の取消が、行政庁が裁判所を経ずにできるとされ、行政庁の監督がついた内容となっていたこと。

 この立入検査には「相当な理由」が必要なことと、その理由を書いた文書を交付することなどの一定の制約を付けることはできたが、削除は難しかった。
 自民党との協議からすると、このの部分を削除するということは、根本的にこの法案を白紙に戻してやり直すことになると考えられる。ただし、認証の取消が裁判所を経ないでできるのは、オウム事件なみの事件が起こった場合であるとされている。

こうして、5月22日に入り、6月18日の通常国会の会期切れを目前に控え、与党3党と民主党は、共同して衆議院で与党法案を修正して成立させることに合意した。

一方、新進党は、昨年11月に独自のNPO法案を国会に再提出した。(昨年10月の総選挙で、以前提出していたNPO法案は自動的に廃案となっていた。)この法案は、地域基盤を持つ市民活動を対象としており、社員(会員)の2分の1以上が同一都道府県内に居住していること、同一都道府県内での活動の割合が半分以上であること、公益性を要件としていることなど、問題が多い法案であった。
今年、3月には共産党も「民間非営利法人法」という独自の法案を国会に提出した。


 

2. 現状と見通し

まず今国会での見通しは次の通りである。

基本的には、与党3党案が議論の対象となる。

さらなる修正は、この国会中には難しそうである。
したがって、さらに修正を行うには、民主党、社民党、さきがけに働きかけて、ここで協議をいったん打ち切って、根本的なやり直しを求める以外にない。その場合は、現在出ている法案総てを廃案にする方向にもっていくのが望ましい。もしくは、与党案に修正を加えてから廃案にすることもありうる。

一方、現状の修正で成立を図るとしても、この国会での審議入りはかなり難しい見通しとなっている。
とりわけ問題なのが、スケジュールである。
6月18日に閉会となり、今のところ延長はないとされている。
与党3党案、新進党案、共産党案と3本も議員立法で法案が提出されている上に、民主党がそれに修正をかけていくということになると、スムーズにいっても3週間〜4週間はかかると考えられる。
もうすでに後1カ月弱しかない現状を考えると、すぐに審議入りが決まっても、成立は難しい。新進党が反対した場合には、もっと難しくなるだろう。

今国会後の見通しはますます不透明となる。

現状以上の修正(微修正は可能だが)をするには、根本的にやりなおさざるを得ず、そのためには、なんらかの強力な政治上の変化が必要となってくる。現状では、自民党に関しては、徐々に衆議院での過半数を越えていく傾向が続くものと思われる。このため自民党から譲歩を引き出すことは、今後ますます困難となってくる。
この場合、大きな政治上の変化を生むきっかけとして期待できるのは、9月の自民党の総裁選挙を軸とした政界再編(可能性は薄い)または総選挙(ほとんどないといわれている)、日米安保のガイドライン見直しを契機とした社民党の与党離脱による政界再編などであるが、今のところそのような兆しは薄い。
したがって、大きな政治上の変化は、おそらく来年7月の参議院選挙か、その後、来年後半か再来年(1999年)にあると想定される総選挙かと考えられる。(現状では同日選挙の可能性は少ないとされているがないわけではない)その後の政界再編なりで、市民活動を重視派が勢力を強めた場合、やっと新たな枠組みで協議を始めるとするとそれから1〜2年はかかるだろう。
つまり、やり直す場合には、最低でも今からだと、4〜6年はかかる見込みとなる。

一方、この法案の微修正にせよ、継続審議にせよ、進める側の基盤にも問題が生じてくる可能性が高い。
この法案は、与党3党の連立政権の合意で進められてきた経緯がある。
しかし、現状での連立政権の基盤は極めてもろいものとなってきている。
次の国会は、秋の臨時国会と見られている。
しかし、秋の臨時国会を開くには、なんらかのテーマが必要となるが、それが今のところはっきりしない。ウルグアイラウンド対策の補正予算作成なども今年は難しいという予測もあり、場合によっては秋の臨時国会はないかもしれない。たとえ、あっても、1カ月〜2カ月程度であり、重要法案とされていないNPO法案
を審議するのは難しいだろう。(もちろん可能性はある)
すると、来年の通常国会ということになるが、1月〜3月は予算審議にかかりきりとなるので、法案審議は4〜6月となる。来年7月には参議院選挙があるので、法案審議はかなり手間取ることが予想される。また、各党が独自色を強め、党の色の出る法案は、選挙後へと回す可能性が高い(逆に連立の結束を高めるために法案を通す可能性もないではないが、低いといわれている)(これに比べると秋の臨時国会の方がまだ可能性があるかもしれない)。
そうなると、やはり参議院選挙後ということになり、その場合、政権の枠組み論が起こってくるため、ほとんど予測ができない。この場合においても、再来年の通常国会がターゲットとなり、再び衆議院選挙がらみの進行となる。

結論としては、
政治は一寸先がヤミと言われるので、読むのがかなり難しいのだが、


 

3. シーズの運動


シーズは、結成以来、

(1)法人格の簡易な取得
市民団体は、会社と同じように一定の要件を満たすことにより、法人となることができる(準則主義)ようにする。

(2)市民活動を推進する税制の整備
市民の自発的社会活動を推進するため、税制を整備する。
  • 寄付、ボランティア活動の経費などを税の控除対象とすること。
  • 市民団体に対する課税を軽減すること。

(3)市民活動情報の公開
市民活動の発展と市民参加のため、これら団体の活動情報などを公開する仕組みを創設する。
という3つのテーマを掲げて活動してきた。

運動の手法としては、事務局・運営委員会主導型ではあったが、運営委員会を公開すること、すべての正会員団体及び役員とはファックスによる連絡網を作り、運営委員会の議事録、重要な政党との懇談会の案内、大きな動き、などを伝え、その運営の透明性を図ってきた。
また、ほとんど毎月に及ぶフォーラム、シンポジウムなどを通して、各政党に開かれた政策検討の場を提供してきた。
一方で、シンポジウムやフォーラムでの会場からの意見などをアンケートで各政党に返すとともに、重要な時期に署名運動などを行い、また法案の修正点などについて提案するなどして、法案形成に市民側の声を届ける働きも行ってきた。

法案の現状とそれへの対応としては、
4月の運営委員会では、法案の現状と今後の見通しの中で、この国会で民主党の修正を確定して成立させるべきであるという結論となった。

見込まれる修正ができた場合の法案への評価としては、目的からすると

1.目的とした「法人格の簡易な取得」という点は一定程度達成したが、準則主義はいえない内容となってしまった点は残念である。また、法人の認証の取消や改善命令・立入検査などが行政庁ができるとした点も問題である。しかし、保守勢力の現状と見通しからすると、シーズの目標とした1999年までは、この点に関しては大きな改善は見込めない。認可主義の認証ではあるが、行政庁にかなり要件を明確化したことにより、一定程度準則主義に近づけたともいえる。

2.税制の整備に関しては、立法の過程で、法人制度がなければ税制の制度はないことがはっきりしてきた。また、税制の優遇と法人制度は切り離すことが重要であるとしてきた。この点から、法人制度をステップとして税制優遇措置の実現へ進むというのが現状の戦略となっている。

3.市民活動情報の公開に関しては、与党の法案には、情報公開の制度が盛り込まれ、まだ不完全さも予測できるが、現状では最低限の整備ができる方向が出てきている。

 となっている。
 法案に関して言えば、12の分野を広く解釈すること、行政庁の恣意性にかなり歯止めがかかっていること、社員名簿の提出などといった管理的な内容が大幅に削除されそうなこと、簡単に法人格が取れることなどから、どうにか合格点は越えているのではないかと考えられる。(もちろん、行政庁と厳しく向き合う団体にとっては、合格点にいっていないという団体もある。)
 
 運動論からすると、ここで廃案としてしまって21世紀を待つか、満足できないまでも一歩前進としてここで法律を作り、それから、税制改正や、使いながらの修正にもっていくか、という選択だと思われる。(もちろん継続となった場合もあるが)

国会での審議が進まない場合、他にも次のことが予想される。
まず、各省庁が、縦割りの法人制度を強化することである。
厚生省は、介護保険法をにらみ社会福祉法人の認可基準を緩和して福祉系の団体をそれにより法人化するだろう。外務省や環境庁も独自の法人制度をつくるか、役に立つ団体の社団法人・財団法人化を進めるものと思われる。
これらの法人格は、市民活動法人制度よりも活動内容の制限や監督が厳しく、市民団体の行政の下請化を進めることにつながる。

現状では、市民団体の基盤は極めて脆弱である。
社会的認知も低く、まだ一つの社会的勢力を形成してはいない。
一方、行政庁は、ますます市民団体を自己の必要な分野においては、抱え込もう、下請化しようとしており、そのために公益法人制度や社会福祉事業法などを使っている。今後その傾向はますます強くなると考えられる。
運動としては、まず法人格をとれるようにして一つの社会的実体として認知をさせ、その活動の内容や情報公開で、税制優遇措置を作ったり、行政の監督を不要にしていくための社会的コンセンサスを作っていく必要があると考えられる。
つまり、民主党の現修正案を受けて、一歩前進であると評価し、法律を成立させるとともに、それを基盤に次の運動への足がかりを明確にすることではないかと考えている。

 そのために与党3党と民主党の修正合意をもって、今国会で成立させることに全力を尽くしたい。



SIC (C)  市民活動情報センター, 1997 sic@mxa.meshnet.or.jp
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